
一)防水工事という言葉は、一般の人にとっては少し遠いかもしれない。だが、私たちの世界では、毎日のように耳にする、ある意味“生命線”のような言葉。見えないところで、建物を守る。「水を制するは建物を制する」という言葉通り、これが防水工事の本質だと思う。
二)私がこの業界に飛び込んだのは30年以上前。最初に現場で経験したのがシーリング工事だった。夏はアスファルトが溶けるほどの暑さ、冬は指先がかじかむような寒さの中、黙々とヘラやローラーを動かしていた日々を今でも忘れない。あの時の「手応え」が、今の原点になっている。
三)雨漏りは突然起こる。昨日まで何ともなかった天井が、今日にはぽたりと音を立てて、多くの人はその時に初めて「防水」の存在を意識する。でも実際には、ずっと前から兆候があったはずで、ヒビ、浮き、排水の詰まりなど小さなサインを見逃さないことがプロの仕事だ。
四)だからこそ、私たちは「事後対応」より「予防的改修」を大切にしている。壊れてから直すのではなく、壊れる前に守る。これは人間の健康管理と一緒で、定期健診のように、建物にも定期的な点検と予防が必要だと思う。実際、定期点検をしていた物件は、寿命が大きく延びる。
五)防水材には様々な種類があり、ウレタン、シート、FRP、アスファルトなど現場ごとに最適な工法は変わる。どれを使えば良いかは、建物の構造、立地、築年数、日当たり、排水勾配などを見極める“診断眼”が求められる。まさに建築外科医のような仕事だ。
六)職人の技術も大きな要素で、防水工事は見た目に派手な作業ではないが、仕上がりに大きな差が出る。膜厚のムラ、端部の納まり、立ち上がりの処理などすべてが水を通すか否かに直結する。地味だけど奥が深い、まさに“匠”の世界だと思う。
七)私たちの会社では、防水保証を10年間つけている。そして年に1回、無料の定期点検をしている。それは自信の表れでもあるし、なにより「長く付き合いたい」という想いの表れでもある。工事が終わった瞬間が、実は本当のスタートなのだ。
八)うちでも、3Dスキャンやドローン、赤外線カメラを活用した診断も増えてきた。常に技術は進化している。でも最終的に判断するのは人間の目と知識だ。だからうちでは、技術者の研修を毎週1回、就業時間内に開催したり、技能や資格取得を積極的に支援している。
九)防水工事とは、「見えない安心」をつくる仕事だ。建物の中にいる人たちが、雨の日も晴れの日も、何も気にせず過ごせること。それを当たり前にするのが、私たちの使命だと思っている。誰かに気づかれなくてもいい。でも、守っているという誇りは、胸に持ち続けていたい。
十)私もこう見えて一級防水技能士。今日もまた、どこかの屋上で技能士たちが黙々と手を動かしている。その姿を見て、私はいつも思う。「雨を止める」って、すごい仕事だなと。目立たないけど、誰かの暮らしを支えている。そんな誇りを、これからも大切にしていきたい。